森千代、矢野玲子、酒井高正、榊原甚作、田辺宏一、後藤信之、大津文子
【背景】リトドリンは切迫早産に用いられる薬剤である。リトドリンの重篤な副作用として肺浮腫、白血球減少症、横紋筋融解症が知られているが、その危険因子に関する検討はほとんど行われていない。我々は症例報告を症例群、臨床現場における健康妊婦を対照群として症例対照研究を行った。【方法】本邦の症例報告からリトドリンの肺浮腫、白血球減少症、横紋筋融解症の発現例を症例群として抽出した。また、臨床現場においてリトドリンが投与されている健康妊婦を対照群として選択した。対象者の年齢、既往歴、妊娠高血圧症候群(PIH)、多胎妊娠、併用薬、リトドリンの最大投与速度を調査し、ロジスティック回帰分析によりそれらの因子と副作用発現との関連を検討した。 【結果】症例群の結果は、肺水腫(28例)、白血球減少症(25例)、横紋筋融解症(21例)であった。肺水腫に有意に関連する危険因子は、心血管疾患の既往、PIH、多胎妊娠、ステロイドとの併用であり、いずれもリトドリンの添付文書の注意書きと一致していた。白血球減少症に関連する因子は、7日を超える投与とMgとの併用であり、横紋筋融解症に関連する因子は、多胎妊娠とMgとの併用であった。【結論】肺水腫発現の危険因子は、リトドリンの添付文書の記載と一致しており、薬理作用で説明できる。したがって、本研究により、妊婦に限った稀な薬物副作用の危険因子を明らかにすることができた。白血球減少症および横紋筋融解症の発症は、妊娠による生理的変化と病態の進行およびリトドリンの薬理作用によって引き起こされ、危険因子である可能性が示唆された。