田島俊彦
がん化学療法は、薬剤を用いてがん細胞を殺したり、その増殖を抑制したりする治療法である。がん治療薬の発見や開発においては、細胞膜を介した標的がん細胞への抗がん剤の送達だけでなく、標的がん細胞におけるMDR1(p-糖タンパク質)などのATP結合カセット(ABC)トランスポーターの過剰発現による抗がん剤耐性の獲得が大きな課題となっている。しかし、溶質キャリア(SLC)トランスポーターに基づく輸送システムの使用は、両方の問題を解決することができる。なぜなら、ある種のSLCトランスポーターはがん細胞で過剰発現していることがよく知られているからである。したがって、トランスポーターを意識して設計された薬剤は、過剰発現したSLCトランスポーターによって細胞内に輸送され、MDR1によって排泄されないようにすることができる。したがって、トランスポーターを意識した薬剤設計は、輸送システムによる薬剤の吸収、分布、排泄、毒性(ADMET)に非常に有効である。本稿では、トランスポーターを意識した薬剤設計に基づくがん化学療法について説明する。