佐古宏明、鈴木勝彦
翻訳制御は、炎症反応の媒介において極めて重要な役割を果たします。本研究でデキサメタゾン (DEX) に代表されるグルココルチコイドは、炎症遺伝子を含む多様な遺伝子群の翻訳に顕著な阻害効果を発揮する、広く認知された抗炎症剤です。しかし、その制御は転写制御と翻訳制御を伴い、非常に複雑かつ多様です。転写制御はゲノムワイドなトランスクリプトーム解析によって研究されてきましたが、翻訳制御は少数の特定の遺伝子標的 (例: 腫瘍壊死因子) についてのみ研究されており、グルココルチコイドの翻訳レベルに対する全体的な影響は、主に技術的な難しさのためにほとんど研究されていません。ここでは、翻訳中のリボソームのフットプリントを捕捉できるハイスループット mRNA シーケンシング (mRNA-Seq) と組み合わせたリボソームプロファイリングを使用して、リポ多糖 (LPS) または DEX と組み合わせた LPS (LPS + DEX) によって刺激された RAW264 細胞の急性炎症または抗炎症反応のゲノム全体の転写および翻訳解析を実施しました。LPS 単独と LPS + DEX の間の差次的制御の大部分は、転写レベルではなく翻訳レベルによって支配されていることが示されました。アップレギュレーションおよびダウンレギュレーションされた遺伝子クラスターのさらなる解析により、LPS + DEX によって誘導されるアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされた遺伝子の 3'-UTR にのみ豊富に含まれる推定シス制御要素が明らかになりました。この結果は、RAW264 細胞の急性炎症反応におけるグルココルチコイド誘導翻訳制御の現在認識されているメカニズムに代わるものを示唆しています。