菅井友一*、三雲淳平、小松圭太、佐々木九郎
酵母細胞壁を主成分とするビール酵母搾り残渣の油脂増進回収における界面張力低下剤としての利用可能性について検討した。細胞壁溶液を水熱処理し、細胞壁濃度、水熱処理の温度と時間、塩分濃度などの異なる条件下で、リン脂質、タンパク質、脂肪酸などの両親媒性物質を細胞壁から溶液に溶出させた。原油で水熱処理した細胞壁溶液は、溶液と原油間の界面張力の測定にも適用した。塩分の低下、細胞壁濃度および水熱処理温度の上昇に伴い、界面張力は低下した。水熱処理時間は界面張力低下にあまり影響を及ぼさなかった。原油で水熱処理した細胞壁溶液の界面張力低下能力は、原油なしで水熱処理した細胞壁溶液のそれよりも大きくなった。これらの界面張力の低下は、細胞壁から溶出したリン脂質とタンパク質によってもたらされたと示唆された。コア攻法実験は、一次油回収として、水攻法後に原油の有無にかかわらず水熱処理した細胞壁溶液を注入して実施した。原油の有無にかかわらず、水熱処理した細胞壁溶液を注入することにより、それぞれ元の原油の2.0%と1.2%が追加で回収された。これらの結果は、高温の油層に水熱処理を行わない細胞壁溶液を注入するプロセスの利点を裏付けるものである。細胞壁溶液の注入は、コストパフォーマンスが高く、環境負荷が低い有望なEORとなり得る。