川岸茂範、田中敏子、吉野健一、下堂薗恵
我々は以前、舌が口腔内の物質の形状や大きさを認識する立体知覚能力とその臨床応用について調査したことを報告した。本研究では、舌を用いた立体知覚弁別中の脳活動を観察し、45チャンネルの機能的近赤外分光計を用いて、健常者37名(18~75歳)の前頭葉皮質におけるオキシヘモグロビン(oxy-Hb)、デオキシヘモグロビン(deoxy-Hb)、総ヘモグロビン(total-Hb)濃度の変化を測定した。実験課題として、立体知覚テストピース(TP)を舌背中央に置き、被験者は歯や歯茎に触れないようにしながらTPを動かして形状を弁別した。対照課題として、被験者は舌の上に置いたTPを動かさなかった。立体知覚課題に起因するHb濃度の変化は、対照課題のHb濃度から実験課題のHb濃度を差し引くことで得た。立体知覚課題中、ほとんどの被験者で前頭前野を含む前頭皮質のオキシヘモグロビン濃度が上昇した。しかし、結果は個人差が大きいことも示した。立体知覚課題中のヘモグロビン濃度の変化の程度をマッピングしたところ、オキシヘモグロビン濃度と総ヘモグロビン濃度の変化は同様であったが、デオキシヘモグロビン濃度は同程度には変化しなかった。被験者をオキシヘモグロビン濃度の高、中、軽度上昇の3つのグループに分けたところ、年齢とオキシヘモグロビン濃度上昇の程度の間には有意な負の相関が認められた。本研究は、立体知覚がいくつかの異なる情報処理経路に関与している可能性があり、加齢も観察された大きな変動の要因である可能性があることを示唆している。